こんにちは!旅人サイファです。
今回もNHK大河ドラマ『麒麟がくる』の後日談をお届けします。
今回の主役は光秀の娘『たま』。
明智光秀には三男四女の子女がいたと伝わっていますが、その後の足跡が分かっているのはこのたまただ一人です。
他の兄弟姉妹は本能寺の変後の混乱を受けて死亡、もしくは消息不明となっています。
『麒麟がくる』物語中でも描かれていたように、たまは光秀の盟友細川藤孝の長男・細川忠興へ嫁ぎます。
二人は美男美女、仲睦まじい夫婦として将来を嘱望されていたようです。
足利義昭を支えた苦しい時代から続く、明智と細川の絆の象徴とも言える夫婦でした。
しかし…1582年6月2日。本能寺の変によって状況は一変します。
本能寺の変後、明智光秀は各地の大名へ味方になるよう文を出します。
当然、盟友細川藤孝のところへは真っ先に使いを出したことでしょう。
しかし…
時代を見通す力では当代随一とも言われた細川藤孝。
光秀の行動は主殺しとして支持されないと読んだのでしょうか。
明智との訣別を宣言し、信長へ弔意として剃髪して自国に引きこもってしまいます。(以降、名を細川幽斎と改めます)
まさかあの細川藤孝さえ同道してくれないとは…明智光秀はこの時点で絶望を覚えたことでしょう。
もしかしたらこの時点で既に戦意は削がれていたのかもしれません。
たまはその頃、夫細川忠興と共に自領丹後にいたようです。
この時、岳父や夫とどんな問答があったか…詳しくは伝わっていません。
しかし、岳父藤孝に必死で懇願したことでしょう。
たま「義父上!どうか明智の父をお救いください!どうか出兵を!どうか…っ!」
しかし、細川親子が下した判断は非情なものでした。
明智光秀は主殺しの逆賊。
その娘たまは逆賊の娘。
細川親子はたまを極悪人の娘として扱い、丹後国味土野の屋敷に幽閉してしまうのです。
味土野には明智光秀の茶屋があったため、形式上実家へ返した…ということなのでしょうか。
数年後、変後の天下を押さえた羽柴秀吉から赦免され細川家へ戻ったたまですが、その間の悲観たるや…想像に難くありません。
父の裏切り、嫁ぎ先からの冷遇、そして父の死。
そんなたまの傷付いた心を癒したのが…キリスト教でした。
侍女を通じて洗礼を受けたたまは、『ガラシャ』というクリスチャンネームを授かります。
これ以降、彼女は『細川ガラシャ』となるのです。
無断で洗礼を受けたガラシャに、夫忠興は激怒します。
そしてすきま風の吹いていた夫婦関係は、より一層冷えきっていくのです…。
細川忠興は、父に似ず感情の起伏の激しい、激情型の人間だったようです。
彼はガラシャを溺愛しており、屋敷の奥に閉じ込めて他の男性の視界にすら入れないよう強いました。
こんなエピソードが残っています。
ある日、忠興ガラシャ夫妻が庭先で寛いでいたところ…偶然庭作業していた庭師がガラシャの顔を見てしまいました。
それに、にこりと会釈を返すガラシャ。
しかしこれを見た忠興は激情します。
そしてなんと…即座に庭師を惨殺します。
これを見ていたガラシャは…何事もなかったかのようにこの顛末をただ見ていました。
忠興「そなたは…何も感じぬのか。そなたは蛇か」
ガラシャ「…鬼の嫁には蛇がお似合いでしょう?」
と、平然と答えたと言います…。
二人の間に流れる冷たい空気を直に感じ取れるようなエピソードです。
時は流れ…
1600年関ヶ原の戦いの直前、京都の細川屋敷で生活していたガラシャのもとに、西軍石田三成からの使者が訪れます。
石田三成らは、東軍徳川派についた細川忠興を翻意させるため、その妻女を人質に取ろうと画策したのです。
忠興は予期していたのでしょう。
このような事態になっても、決して人質にはなるな!と厳命していました。
それはつまり…命を断て…ということに他なりません。
また、夫忠興から男性から見られてはいけないと命令されてもいます。
ガラシャが選んだ方法は苛烈でした。
奥の間で祈りを捧げるガラシャ。
そして隣の部屋から…障子越しに家臣に槍で突かせ、ついぞその場で絶命します。
そして屋敷は炎に包まれ…その死骸すらも消し去ってしまったのです。
『麒麟がくる』での父娘の別れのシーンでの台詞が胸に刺さります。
光秀「そなたと忠興殿が安寧に暮らせる世を作る」
たま「父上も…長生きしてください」
どちらも叶えられなかった父娘の願い。
長かった戦国の時代も終わり、ようやく平らかな世が訪れたのは、忠興とたまの子、三男忠利の時代になってから…でした。
たまの産んだ細川忠利は江戸時代に熊本五十四万石の大大名として立身、細川家も明治維新まで存続します。
そして細川家は平成の世に、第79代内閣総理大臣「細川護煕」を輩出するに到るのです。
信長を止めることを使命として実行した光秀
時代を読み家名存続を第一とした細川親子
そして悲しい運命に翻弄されたたま(ガラシャ)
悲しい家族の物語が…歴史の裏にはあったのです。
(つづく)
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